ローリング・ストーンズを見ていると、単なるロックバンドという言葉では説明できないパワーを感じます。
1962年の結成から60年以上。ミック・ジャガーやキース・リチャーズは80代になりました。日本で80代といえば、介護やデイサービスといった生活支援が身近になってくる年代でもあります。その年代で巨大なステージに立ち、世界中の観客を熱狂させ続けていること自体が驚異的です。
しかし、彼らの本当のすごさは「80代でも現役」ということだけではないと思います。60年以上、自分たちのルーツを曲げることなく、同時に時代に合わせて変容することを許容してきた。その姿には、長く続くブランドや企業にも通じる戦略があるように感じます。
1番でなくても、自分たちであり続ける
ローリング・ストーンズの歴史は順風満帆ではありません。若い頃には薬物をめぐる問題があり、メンバーの脱退や死もありました。そして彼らが登場した1960年代には、ビートルズという圧倒的な存在がいました。
音楽史を見ても、ローリング・ストーンズが常に「1番」だったとは言えないでしょう。しかし、1番ではないことと、負けることは同じではありません。
彼らはビートルズになろうとはしませんでした。ブルースやR&B、ロックンロールというルーツを捨てず、何十年経っても音を聴けば「ストーンズだ」と分かるものを残してきました。
一方で、昔のやり方を守り続けてきたわけでもありません。音楽の流行も、レコードからストリーミングへと変わった聴かれ方も、メディアも大きく変化しました。その中で彼ら自身も変わり続けています。
ルーツは変えない。しかし、変容することは許容する。
ここにローリング・ストーンズの優れたビジネスセンスを感じます。
変わらないブランドとは、何も変えないブランドではありません。時代に合わせて変化しても、「自分たちは何者なのか」という根っこが失われないブランドなのだと思います。
チャーリー・ワッツの伝説から感じること
ローリング・ストーンズには数多くの逸話があります。その中で、私が印象に残っているチャーリー・ワッツにまつわる話があります。
レコーディングで自分のドラムパートを終えたチャーリーが、さらにバスドラムのテイクを求められ、「あとは若いやつに叩かせればいい」という趣旨の言葉を残してスタジオを去った、という話です。
長い歴史を持つバンドだけに、この話がどこまで事実なのかは分かりません。ストーンズ周辺で伝説的に語られているエピソードの一つとして、私は受け取っています。
そして、ここからは私なりの解釈です。
チャーリーの魅力は、単純な音の大きさではありません。ジャズをルーツに持つ独特のタイム感や間、ハイハットやシンバルを含めたコンビネーションによって、ストーンズ独特のグルーヴを生み出していました。
もしバスドラムだけなら、若いドラマーが叩いた方が現代的でダイナミックな音になる。それなら任せればいい。本人が本当にそう考えていたかは分かりませんが、私はこの逸話に、自分のこだわりより作品としてのクオリティを優先する潔さを感じました。
自分にしか出せないものは自分が出す。しかし、自分より適した人がいるところまで「自分の仕事だから」と抱え込まない。
この考え方は、現在のローリング・ストーンズにもつながっているように思います。
若さを失うなら、提供する価値を変えればいい
若い頃のローリング・ストーンズのライブには、生々しさ、危うさ、荒々しさがありました。若い肉体から噴き出すアグレッシブなエネルギーそのものが魅力だった時代です。
80代になった現在、20代や30代と同じパフォーマンスを望むことはできません。
だからこそ興味深いのは、若かった頃を完全に再現しようとするのではなく、ライブそのものを変化させてきたことです。
巨大なステージ、映像、照明、音響、演出、サポートミュージシャン。それぞれの分野のプロフェッショナルの力を組み合わせることで、メンバー個人のエネルギーだけではなく、会場全体で「ローリング・ストーンズの世界」をつくる。
これは衰えた部分を補っているというより、提供する価値そのものを変えてきたと考えた方が面白いのではないでしょうか。
作品制作でも、外部のプロデューサーやミュージシャンなど、さまざまな才能を取り入れてきました。メンバーだけですべてを完成させることに固執せず、外部の力を借りても、最終的にローリング・ストーンズになればいい。
それができるのは、自分たちのルーツが明確だからなのでしょう。
「株式会社ローリング・ストーンズ」へ
現在のローリング・ストーンズを見ると、もはや単なるバンドではなく、一つの巨大なプロジェクトのように見えます。
世界規模のライブを動かすには、ミュージシャンだけでなく、ステージ、映像、音響、照明、ツアー運営、物流、マーケティング、商品、権利管理など、多くのプロフェッショナルが必要です。
その中心にミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロニー・ウッドがいる。
少し乱暴に表現すれば、**「株式会社ローリング・ストーンズ」**のようなものです。
大切なのは、組織が大きくなったことでメンバーの存在が薄くなったのではなく、むしろ「本人にしかできない仕事」が明確になったことです。
ミック・ジャガーにしかできないことをミックが担い、キース・リチャーズにしか出せない音をキースが出す。それ以外の領域は、それぞれの仕事に優れた人たちが担う。
本人たちが何でもやるのではなく、本人たちにしかできないことへ集中する。その周囲を優秀な人たちが支えることで、個人の能力を超えた巨大なプロジェクトを動かすことができる。
そう考えると、ローリング・ストーンズは長い時間をかけて、メンバー個人のパワーを組織のパワーへ変換してきたとも言えるのではないでしょうか。
若い頃にしか出せない、生々しくアグレッシブなパワーは少しずつ失われていく。しかし、その代わりに組織という新しいパワーを手に入れた。
そして、その組織まで含めてローリング・ストーンズというブランドになっていった。
60年以上の間には、ビートルズをはじめ数多くのスターが登場し、音楽もメディアも産業そのものも大きく変わりました。それでもローリング・ストーンズは、誰かになるのではなく、自分たちであり続けています。
ただし、自分たちらしさを守るために変化を拒絶することはありませんでした。
ルーツは曲げない。しかし、変わることを恐れない。そして、自分たちだけですべてをやろうとしない。
変わらないために、変わり続ける。
60年以上経った今もローリング・ストーンズがローリング・ストーンズであり続けていることこそ、彼らの最大のブランド戦略であり、本当の「パワー」なのではないでしょうか。

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