成功したのに、なぜ苦しんだのか。NIRVANAとカート・コバーンから考える「成功」の正体

私と同じ世代の方なら、なんとなく覚えているのではないでしょうか。

1990年代初頭。

ロックの世界には、Guns N’ Rosesのような巨大なロックスターがいて、日本でもその後ヴィジュアル系と呼ばれるバンドが大きな存在になっていきました。

派手な衣装、華やかなステージ、酒、ドラッグ、女性、巨大なライブ。

「SEX, DRUGS & ROCK’N’ROLL」という言葉が象徴するような、ロックスターという存在そのものが一つのファンタジーだった時代です。

そんな華やかなロックの世界に、ネルシャツと破れたジーンズで突然現れたバンドがいました。

NIRVANAです。

華やかな世界とはまるで反対。

自分の内側にある怒り、孤独、違和感、葛藤。

それを爆音とともに吐き出した。

「誰かによって作られた格好いいロックスター」ではない。

むしろ、そんな世界そのものに中指を立てるような存在だったと思います。

ところが皮肉なことに、そのNIRVANAが世界中を釘付けにしてしまいます。

1991年に発表された『Nevermind』、そして「Smells Like Teen Spirit」の大ヒットによって、NIRVANAは世界的な存在になりました。『Nevermind』は後に米国議会図書館のNational Recording Registryにも登録されています。Library of Congress

目次

ロックスターを否定した男が、ロックスターになってしまった

ここに、私はものすごく皮肉な「成功の真実」があると思っています。

成功したくても成功できない人は五万といます。

曲を作っても売れない。

ライブをやっても客が来ない。

才能があっても知られない。

ほとんどの人は「どうしたら成功できるのか」で苦しみます。

ところがカート・コバーンは、その反対側で苦しむことになった。

既存のロックスター像や商業主義的な価値観に反発していた人間が、その圧倒的な成功によって、自分自身が巨大な音楽産業の中心へと押し上げられていく。

MTVでは自分たちの映像が流れ、世界中で名前を知られ、巨大な会場で演奏する。

かつて自分が違和感を抱いていた側の人間に、自分自身がなっていく。

もちろん、それだけが彼の苦悩の原因だったと単純化することはできません。

しかし私はここに「自己矛盾」というものを感じます。

「Come As You Are」に救われた私

私はNIRVANAの「Come As You Are」という言葉が好きでした。

私自身はこれを、

「ありのままの君で来てくれ」

というメッセージとして受け取っていました。

人間関係が苦手で、人に嫌われないように生きてきた若い頃の私にとって、この言葉には救われるような感覚がありました。

そのままでいいんだ、と。

ところが今になってカート・コバーンという人間を振り返ると、少し不思議な気持ちになります。

私が「ありのままでいい」と受け取って救われた音楽を作った本人が、世界的成功の中で、自分自身と社会から求められる自分との間で苦しんでいたように見えるからです。

ここに、ビジネスにも通じる大切なことがあると思っています。

売れれば成功なのか

ビジネスでは、売上を増やそうとします。

会社を大きくしようとします。

店舗を増やす。

従業員を増やす。

知名度を上げる。

SNSのフォロワーを増やす。

もちろん私も経営者ですから、それを否定するつもりはありません。

問題は、

「自分が本当にやりたかったこと」と「成功した結果、自分がやっていること」が離れていっていないか。

ということです。

最初は人に喜んでもらいたくて始めた仕事だった。

ところが会社が大きくなるにつれて、数字だけを追いかけるようになる。

自由になりたくて起業したのに、気がついたら誰よりも時間に追われている。

人を幸せにする会社を作りたかったのに、社員を数字だけで見るようになる。

これは決して珍しい話ではないと思います。

事業が失敗して苦しむことは分かりやすい。

でも、

「成功したからこそ生まれる自己矛盾」

というものもあるのではないでしょうか。

だからこそ、自分が提供するサービスと、自分が大切にしているものの間には、できる限り一貫性を持たせておく必要がある。

これは経営を続けるうえで、とても大切なことだと思っています。

「成功」の向こう側に何があるのか

1994年、カート・コバーンは27歳で亡くなりました。

彼の遺書には、ニール・ヤングの楽曲から引用した有名な言葉が残されています。

「消え去るより、燃え尽きた方がいい」

ただ、私は彼が亡くなった理由を一つの答えにしてしまいたくありません。

精神的な問題や薬物依存、身体的な苦痛、家庭や名声による重圧など、外側にいる私たちが一つの原因を決められるようなものではないと思うからです。

それでも、経営者としてカート・コバーンの人生を見ると、どうしても考えてしまいます。

もし、お金を手にすることが成功なら。

もし、有名になることが成功なら。

もし、自分の作品が世界中に届くことが成功なら。

NIRVANAは、とてつもない成功を手にしています。

それなのに、なぜその中心にいた本人は苦しんでいたのだろう。

だから私が考えたいのは、

「成功したかどうか」ではなく、「その成功に、自分自身が意味を感じられているか」

ということです。

成功を追いかけている途中では、なかなかそんなことは考えません。

私自身もそうです。

もっと売上を上げたい。

もっと会社を良くしたい。

もっと評価されたい。

もっと先へ行きたい。

そう思います。

でも、ときどき立ち止まって、

「それは、何のためなのか」

を確認する必要があるのだと思います。

成功と自分の価値観が離れすぎたとき、成功そのものが自分を苦しめるものになってしまうかもしれないからです。

NIRVANAの音楽は30年以上経った今でも残っています。Rock & Roll Hall of Fame

そして49歳になった私は、10代の頃とはまったく違う角度から、その音楽を聴いています。

あの頃は、ただ格好よかった。

今は経営者として思う。

成功とは、いったい何なのだろう。

もしかしたら、その問いを忘れないこと自体が、成功することより大切なのかもしれません。


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