事業を始めて長く経ってから、あらためて気づいたことがあります。
それは、0→1は「開業した日」から始めるものではないということです。
考えてみれば当たり前なのですが、これから独立しようとしていると、どうしても「開業すること」が大きな目標になります。
特に、どこかの会社で従業員として働きながら独立を目指している場合、
「許可を取る」
「車両を準備する」
「事務所を用意する」
「○月○日に開業する」
といった準備に意識が向きます。
そして、ようやく開業日を迎える。
ところが、そこで初めて気づきます。
お客様がいない。
私自身がそうでした。
開業したら、月給4万円になった
私は会社員から介護タクシーを開業しました。
しかし、開業したからといって、それまで会社からもらっていた給料がそのまま事業収入に置き換わるわけではありません。
お客様がいなければ売上はありません。
結果として、私の収入は月4万円ほどになりました。
開業する前は毎月給料が入ってきます。
だから、どうしても車両や許可、設備など、「仕事を受けられる状態をつくること」に意識が向いてしまいます。
しかし、本当に準備しておかなければならなかったのは、その先だったのだと思います。
誰が自分に仕事を頼んでくれるのか。
車があっても、許可があっても、お客様がいなければ事業にはなりません。
仕事は勝手には入ってこない
私が介護タクシー業界に参入した当時、驚いたことがありました。
「開業すれば仕事は入ってくる」
そう考えている人が意外と多かったことです。
自分から営業には行かない。
それなのに、
「あの病院は仕事をくれない」
「あそこの施設から全然依頼が来ない」
と不満を言っている。
私には、それが不思議でした。
病院や施設からすれば、知らない事業者に仕事を頼む理由はありません。
こちらから挨拶にも行っていないのに、「仕事をくれない」と言っても、相手はそもそも自分のことを知らないのです。
ところが、これは私にとって大きなチャンスになりました。
誰も営業しないなら、営業するだけで違いになる
周りの事業者があまり営業に来ていなかったため、私が病院や施設などへ挨拶に伺うと、意外なほどすんなり受け入れてくださいました。
特別な営業能力があったわけではありません。
ものすごく優れたサービスを最初から持っていたわけでもありません。
ただ、挨拶に行った。
顔を覚えていただいた。
何かあったときに思い出していただけるようにした。
それだけでも、当時の環境では違いになったのです。
ここには、0→1を考えるうえで重要なヒントがあると思っています。
今の自分でも勝てる場所を探すことです。
競争の激しい場所で、強い会社と同じことをして勝つ必要はありません。
自分にまだ資金がない。
知名度もない。
人もいない。
経験も十分ではない。
それなら、今持っているもので勝負できる場所を探せばいい。
私の場合、その一つが「自分から挨拶に行くこと」でした。
周りがやっていなかったから、それだけでも意味がありました。
0→1は開業前から始められる
もし今、開業当時の自分にアドバイスできるとしたら、
「開業する前から動いておいた方がいい」
と伝えます。
もちろん、まだ必要な許可を得ていない段階で営業行為を行うという意味ではありません。
地域の関係者へ挨拶に行き、
「今度、この地域でこういう事業を始める予定です」
と知っていただく。
そして相手の話を聞く。
「どんなことで困っていますか」
「今はどういう事業者へ依頼していますか」
「こんなサービスがあったら使いますか」
そうした話を聞いておく。
開業後に初めて訪問して、
「介護タクシーを始めました。よろしくお願いします」
と挨拶するのと、以前から顔を出していて、
「ああ、あのときの人ですね。いよいよ始めたんですね」
となるのでは、スタート地点が違います。
ホームページも早くから育てておく
ホームページも同じです。
開業してから慌てて制作するのではなく、できることなら早い段階から準備しておく。
自分が何をする人なのか。
どんなサービスを始めようとしているのか。
どの地域で活動する予定なのか。
なぜ、この仕事を始めるのか。
そうした情報を少しずつ蓄積しておけば、開業するときにはすでに情報発信の土台があります。
もし開業前に問い合わせをいただいたら、まだ対応できないことを正直に伝え、既存の事業者へお願いする方法もあります。
「こういう問い合わせをいただいたのですが、お願いできますか」
と仕事をつなぐ。
そこから同業者とのパイプができるかもしれません。
そして、その事業者から仕事について教えていただくこともできる。
自分が仕事を受けられるようになる前から、お客様、地域、同業者との関係をつくることはできます。
むしろ開業前だからこそ、できる準備があるのだと思います。
「やりたいこと」だけから事業を考えなくてもいい
もう一つ、0→1では大切だと思っていることがあります。
それは、
「自分が何をやりたいか」だけで事業を決めなくてもいい
ということです。
もちろん、やりたいことが明確で、そこに需要があり、事業として成立するのであれば素晴らしいと思います。
しかし、やりたいことではなかなか事業を構築できない場合もあります。
そんなときは、一度視点を変えてみてもいい。
世の中で必要とされていることは何か。
そして、
その中で、自分が今持っているリソースで勝てる場所はどこか。
ここを探します。
必要とされていることから事業を考え、自分が持っている経験、人脈、資格、技術、時間、行動力などを組み合わせてみる。
大きな資本がなければ、大きな資本を必要としない場所を探す。
営業力に自信がなくても、競合がほとんど営業していない市場なら、挨拶に行くだけでも違いになるかもしれない。
つまり、
「自分が強いか」ではなく、「今の自分でも勝てる場所はどこか」を考える。
これも事業者として必要な視点だと思います。
まず一度、事業をつくってみる
私は、最初から自分の理想の事業を完成させる必要はないと思っています。
まず一度、自分の力で0→1をつくってみる。
必要とされるものを見つける。
サービスにする。
営業する。
最初のお客様に利用していただく。
お金をいただく。
リピートしていただく。
紹介していただく。
そして、その収入で自分の生活を支えられるところまで持っていく。
この一連の経験を一度すると、見える景色が変わります。
「こうすればお客様は来てくださるのか」
「ここに需要があるのか」
「このサービスにはお金を払っていただけるのか」
「こういう仕組みにすれば自分以外でもできるのか」
事業者としての視野が広がっていきます。
だから、やりたいことで事業を構築するのが難しいと感じているのであれば、まずは「事業をつくること」を優先してみるのも一つの方法だと思います。
最初の事業が人生最後の事業である必要はありません。
一度0→1を経験すれば、その経験を使って次の事業を考えることもできます。
すでに開業して焦っているなら
では、すでに開業して、
「思ったより仕事がない」
「生活費が足りない」
「早く売上をつくらなければ」
と焦っている場合はどうするか。
私は、無理に事業だけで生活しようとしなくてもいいと思います。
必要ならアルバイトをして、まず生活費を確保する。
生活できない状態で営業をすると、どうしても目の前の売上が欲しくなります。
焦って値段を下げたり、本来受けるべきではない仕事まで受けたり、短期的な判断をしやすくなる。
それよりも生活費を別で確保して、焦らず事業の土台をつくる。
挨拶に行く。
ホームページを育てる。
情報を発信する。
地域の困りごとを聞く。
同業者との関係をつくる。
一件一件のお客様を大切にする。
そうして少しずつ、収入の柱を移していけばいい。
アルバイトで月15万円、事業で月3万円だったものが、
事業で5万円、10万円、15万円、20万円と増えていく。
やがて事業から得られる収入がアルバイトを超える。
そこからが、本当の意味で事業が始まっていくのだと思います。
開業と事業は違う
開業届を出す。
許可を取る。
車を用意する。
看板を掲げる。
それで「開業」はできます。
しかし、それだけでは「事業」にはなりません。
仕事は勝手には入ってきません。
必要としている人を探し、自分を知っていただき、サービスを利用していただき、対価をいただく。
そして、また依頼していただく。
紹介が生まれる。
その売上から生活費や経費をまかない、さらに次の投資ができる。
そうした循環ができて、初めて事業になっていくのだと思います。
だから、これから独立する人には、
開業日を0→1の「0」にしないでほしい。
開業する前から人に会う。
話を聞く。
自分を知っていただく。
発信する。
そして、
「今の自分でも勝てる場所はどこだろう」
と探してみる。
自分がやりたいことだけではなく、必要とされていることを見る。
その中から、自分の持っているリソースで提供できるものを探す。
まず一度、自分の力で事業をつくってみる。
その経験ができれば、その先に見える景色はまた変わってくるはずです。
開業することと、事業をつくることは違います。
そして事業づくりは、開業するずっと前から始めることができます。

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