求人というのは、そもそも難しいものだと思っています。
特に中途採用であれば、応募してくる人の多くは、それまでどこか別の会社で働いています。
その人が今の職場を離れ、わざわざ私たちの会社に来るためには、
「この会社に来る理由」
がなくてはなりません。
給与なのか。
働き方なのか。
仕事内容なのか。
会社の考え方なのか。
将来性なのか。
人によって、その理由は違います。
そして、応募者が私たちの会社に来る理由と、私たちが提供している仕事やサービスが一致しなければなりません。
私は、この一致こそが採用の難しいところだと感じています。
中途採用では「今いる場所を離れてまで来る理由」が必要
転職するというのは、応募者にとって大きな決断です。
今の職場を辞める。
人間関係を変える。
仕事内容を変える。
勤務時間や収入も変わるかもしれない。
つまり、それまでの環境を手放して新しい会社へ来るわけです。
そう考えると、
「求人を出しているのに、なぜ良い人が来ないのだろう」
と考える前に、会社側も、
「この人が、今の環境を離れてまで私たちの会社に来る理由は何だろう」
と考える必要があります。
求人広告を出せば人が来る。
条件を並べれば応募が来る。
そんな単純なものではありません。
応募者が求めているものと、会社が提供できるもの
応募者が会社に求めるものは、人によって違います。
高い収入を求める人もいます。
働きやすさを求める人もいます。
安定を求める人もいます。
一方で、会社側にも求めるものがあります。
お客様に丁寧に接すること。
周囲と協力すること。
目の前の仕事だけではなく、サービス全体を見ること。
困っている人の立場を考えること。
もちろん、高い給与や良い条件を求めることが悪いわけではありません。
大切なのは、
その人が会社に求めているものと、会社がその人に提供できるものが一致しているか。
そして、
会社がその人に求めているものと、その人自身が大切にしているものが一致しているか。
ここだと思います。
ここが大きくずれていれば、採用できたとしても、お互いに長くは続かないでしょう。
会社側は、
「こんなはずではなかった」
と思う。
働く側も、
「聞いていた話と違う」
と思う。
これは会社にとっても、本人にとっても良い採用ではありません。
魅力的に見せすぎる求人にも違和感がある
求人広告を見ていると、
「月収80万円可能!」
といった、とても強い表現を見かけることがあります。
もちろん、本当にその収入を得ることが現実的な仕組みになっているのであれば、それ自体を否定するつもりはありません。
しかし、非常に限られた条件だけを前面に出して、とにかく応募者を集めようとする採用には違和感があります。
求人を魅力的に見せれば、面接の数は増えるかもしれません。
しかし、面接に来て実際の仕事内容や条件を知ったとき、
「思っていた仕事と違った」
となれば採用にはつながりません。
仮に入社したとしても、求人広告と現実のギャップが大きければ、すぐに辞めてしまう可能性もあります。
そうなれば、
応募した方も時間を使います。
採用する側も時間を使います。
さらに入社すれば、現場の人たちも教育に時間を使います。
それで短期間で退職してしまえば、双方にとって大きな損失です。
だから私は、面接数を増やすことが採用活動の目的ではないと考えています。
「雇用する」ということを私は重く考えている
私が採用するときに、大切にしている考えがあります。
それは、
雇用するということは、家族を一人増やすようなものだ
ということです。
もちろん、本当の家族と社員は違います。
しかし、一度雇用すれば、その人とは非常に長い時間を一緒に過ごすことになります。
日本では、多くの人にとって働いている時間は決して短くありません。
1日の大部分を仕事に使い、それを何年、何十年と続けていく。
そう考えれば、仕事はその人の人生の非常に大きな部分を占めています。
私はある意味、
働くことは人生そのものでもある
と思っています。
その貴重な時間を、私たちは一緒に過ごします。
会社にとっては「社員が一人増えた」ということかもしれません。
しかし、その一人にも人生があります。
生活があります。
家族がいるかもしれません。
将来があります。
だから私は、人手が足りないからといって、
「とりあえず採用してみよう」
とは、できるだけ考えないようにしています。
一緒に働く同志を迎える。
それくらいの気持ちで採用には向き合いたいと思っています。
資格があることと、この仕事に向いていることは同じではない
私たちの仕事には資格要件があります。
そのため、応募してくださる方の多くは、時間とお金をかけて必要な資格を取得してきています。
ただ、私はそこで一つ注意して見ていることがあります。
資格を取っていることと、この仕事に対する理解や覚悟があることは、必ずしも同じではない
ということです。
応募してくださる方の中には、
「資格を取ったから、この仕事ならできそう」
「基本的には運転が中心で、体力的にもそこまで大変ではなさそう」
「高齢者の方とゆっくり話をしながら、1日に2、3件くらい対応して給与がもらえればいい」
というようなイメージを持って来られる方もいます。
もちろん、そう考えること自体を責めたいわけではありません。
求人情報だけを見れば、そのように見えてしまう部分もあると思います。
しかし、実際の仕事はそれほど単純でも、楽なものでもありません。
ただ車を運転して目的地まで送り届ければ終わり、という仕事ではありません。
お客様の身体状況を見ながら対応を変える。
予定通りにいかないこともある。
移動に不安を抱えている方に声をかける。
周囲と連携しながら、安全に外出や通院を支える。
その場その場で考え、判断し、動くことが求められます。
だから私は、資格を持っているという事実だけでは採用を判断しません。
むしろ、
「この人は、この仕事をどのような仕事だと思っているのか」
をかなり大切に見ています。
同じ業界での経験は、一つの判断材料になる
そのため、私の場合は、介護業界の経験がある方を中心に採用しています。
もちろん、介護業界の経験があるから必ず私たちの仕事に向いている、ということではありません。
逆に、未経験だから向いていないということでもありません。
ただ、介護の仕事を経験している方であれば、
人を支える仕事は、きれいなことや楽しいことばかりではないこと。
相手の状況に合わせて動かなければならないこと。
自分の都合だけでは仕事が進まないこと。
困っている人に向き合うということが、実際にはどのようなことなのか。
そうした現実を、ある程度経験している可能性があります。
だから私は、これまでどのような仕事をしてきたのか、その中でどのように人と関わってきたのかを一つの判断材料にしています。
これは介護業界に限った話ではないと思います。
もし別の業種で採用を考えているのであれば、
その人が自社と同じ業界、あるいは近い仕事をどれくらい経験してきたのか
ということは、一つの目安になるのではないでしょうか。
業界経験があれば、その仕事特有の大変さや、お客様から求められることをある程度理解しています。
そのうえで、
「それでもこの仕事を続けたい」
「この会社で働きたい」
と思って応募しているのであれば、仕事に対するイメージと現実の差も小さくなる可能性があります。
採用では資格や職歴そのものを見るだけではなく、
その経験を通じて、何を学び、どんな姿勢で仕事をしてきたのか
を見ることが大切だと思っています。
「人の役に立ちたい」を実践してきた人か
私は採用するとき、
その人が本当に「人の役に立ちたい」「困っている人を助けたい」ということを、これまで実践してきた人なのか
を見るようにしています。
言葉で、
「人の役に立ちたいです」
と言うことはできます。
しかし、大切なのは、それまでどんな行動をしてきたのかです。
困っている人がいたときに声をかけたことがある。
誰かのために自分の時間を使ったことがある。
周囲が困っているときに自然と手を貸してきた。
仕事の中でも、自分の担当だけではなく、その人が本当に困っていることを考えてきた。
そうした行動の積み重ねを見るようにしています。
私たちの仕事では、
「医者に行きたい。でも、自分だけでは行けない」
という人に出会います。
そのとき、
「自分の仕事はここまでだから」
と考えるのか。
それとも、
「この人をどうしたら病院まで連れていけるだろう」
と考えられるのか。
私は、この違いはとても大きいと思っています。
「困っている人を放っておけない」が仕事の土台になる
私は、採用するときに、
困っている人を放っておけない人かどうか
を大切にしています。
もちろん、何でも抱え込めばいいという意味ではありません。
できないことまで無理にやる必要もありません。
しかし、
「この人はいま何に困っているのだろう」
と自然に考えられる人。
「自分にできることはないだろうか」
と考えられる人。
そういう人は、この仕事の中で大きく成長していくと思っています。
なぜなら、この仕事には正解が一つではないからです。
お客様の身体状況も違います。
家庭環境も違います。
行き先も違います。
求めていることも違います。
だから職場では、
「あの方には、こうした方がいいよね」
「この場合は、こっちの方法の方がいいんじゃないか」
「次回はこの機材を用意しておこう」
「この方には、こう声をかけた方が安心してもらえそうだ」
といった会話が生まれていきます。
私は、こういう会話が増えていくことが、良い組織になっていく一つの姿だと思っています。
使命がある人にとって、仕事は「やらされるもの」ではなくなる
人の役に立ちたい。
困っている人を助けたい。
その思いが本当にある人にとって、私たちの職場は単なる労働の場所ではなくなっていきます。
「もっとこうした方がいい」
「あの人のために、次はこうしよう」
「このサービスをもっと良くしたい」
という考えが自然に生まれてくるからです。
そうなると、仕事は、
使命とやりがいを実践する場所
になっていきます。
給与をもらうためだけではなく、
「自分の仕事が誰かの生活につながっている」
と感じられるようになる。
私は、その感覚がこの仕事を長く続けていくうえで非常に大切だと思っています。
逆に、仕事内容や条件だけを見て入社した人にとっては、厳しい場面が続いたときに、
「なぜここまでしなければいけないのか」
となりやすい。
もちろん、給与や休日、労働条件はとても大切です。
しかし、それだけでは乗り越えられない場面が、この仕事にはあります。
だからこそ、私は採用の段階で、
この仕事を通じて誰の役に立ちたいのか
という部分を見るようにしています。
私たちの採用は3日間に分けている
私の会社では、採用を一度の面接だけで決めていません。
大きく3つの段階に分けています。
1日目は面接
まずは、お互いの考え方を知ります。
これまでどんな仕事をしてきたのか。
なぜ転職を考えているのか。
なぜ私たちの会社に興味を持ったのか。
そして、私たちがどんな考え方で事業をしているのかを伝えます。
2日目は半日体験
実際の仕事を見てもらいます。
求人票や面接だけでは、仕事のすべてを伝えることはできません。
現場の雰囲気。
お客様との接し方。
どんな仕事をするのか。
どんな社員が働いているのか。
実際に自分の目で見てもらいます。
これは会社が応募者を見るためだけの時間ではありません。
応募者にも会社を見てもらう時間です。
「ここで本当に働きたいのか」
本人にも判断してもらいます。
3日目は条件の確認
給与や勤務条件なども含め、
「それでも一緒に働きたいか」
を最後に双方で確認します。
私は、採用を急いで一日で結論を出す必要はないと思っています。
むしろ人生の大切な時間を一緒に過ごす相手だからこそ、お互いに考える時間があった方がいい。
会社も選ぶ。
応募者も選ぶ。
そのうえで、
「一緒にやっていきましょう」
となることが理想だと思っています。
採用で見ているのは「会社に合うか」だけではない
私が採用で見ているのは、
「この人は私と気が合いそうだ」
ということではありません。
私自身と性格が合うかどうかより重要なことがあります。
それは、
「この人は、私たちのサービスにマッチしているだろうか」
ということです。
私たちは何のためにこのサービスを提供しているのか。
どんなお客様に利用していただいているのか。
そのお客様に、どんな姿勢で接してほしいのか。
そこに、その人の考え方や働く目的が合っているか。
採用とは、その確認作業なのだと思っています。
採用された人は、やがて私の代わりにお客様の前に立ちます。
その人の言葉。
その人の態度。
その人の行動。
それらすべてが会社のサービスになります。
だから、経験や資格だけでは決められません。
採用した人より「今いる人」を大切にする
そして、採用と同じくらい大切なのが、
今いる人を大事にすること
だと思っています。
私の会社では、比較的長く勤めてくださる方が多いです。
法人化して7年になりますが、3年以上勤めている10名については、現在まで一人も辞めていません。
もちろん、その理由は一つではないと思います。
仕事内容が合っている。
人間関係が良い。
生活とのバランスが取れている。
働く目的に合っている。
さまざまな理由があるでしょう。
それでも、長く一緒に働いてくださる人がいるということは、会社にとって非常に大きな財産です。
採用活動をしていると、どうしても「新しい人」に目が向きます。
しかし、本当に大切にしなくてはいけないのは、
すでに会社を支えてくれている人たちです。
新しい人を採用するために条件を良くする。
求人広告には良いことを書く。
一方で、今いる社員への配慮がなくなってしまう。
これでは順番が逆だと思っています。
まず、今いる人たちが、
「この会社でこれからも働いていきたい」
と思える環境をつくる。
そこに新しい仲間を迎える。
私は、その順番を大切にしています。
一人のために、今いる仲間を犠牲にしてはいけない
組織をつくっていると、難しい判断をしなくてはいけないこともあります。
新しく入った人が、会社の雰囲気を大きく乱してしまう。
周囲との協力を拒む。
不満や対立を広げてしまう。
会社が大切にしている考え方とどうしても合わない。
もちろん、すぐに「合わない」と決めつけるべきではありません。
話し合うことも必要です。
伝えることも必要です。
改善する機会をつくることも必要です。
しかし、一人を守るために、これまで長く会社を支えてきてくれた人たちが苦しむようになれば、経営者として判断しなくてはいけない場面も出てきます。
新しく入った一人のために、今いる大切な仲間を失ってはいけない。
これは、組織を運営するうえで私が強く意識していることです。
場合によっては、厳しい決断をしなくてはいけないこともあると思います。
ただ、私自身のこれまでの経験では、周囲との関係を壊し続ける人や、会社の考え方とどうしても合わない人は、こちらが無理に排除しなくても、自分から離れていくことが多かったように感じています。
だからこそ、感情的に判断するのではなく、
伝えるべきことを伝える。
改善できる機会をつくる。
それでも合わないのであれば、お互いに別の道を選ぶ。
そのくらいの姿勢が必要なのだと思います。
人を集める会社より、人が残る会社をつくる
私は、求人広告を上手につくることだけが採用力ではないと思っています。
今いる社員が長く働いていること。
社員同士が協力できていること。
新しく入った人を受け入れられる組織になっていること。
これも立派な採用力です。
むしろ、
人を集める会社より、人が残る会社の方が強い。
私はそう思っています。
どれだけ応募者を集めても、毎年たくさん辞めてしまえば、永遠に採用活動を続けなくてはいけません。
反対に、一度入った人が長く働いてくれれば、その人の経験が会社に蓄積されます。
新人を育てられるようになります。
お客様との信頼も積み重なります。
会社の文化もつくられていきます。
組織というのは、人を入れ替えながらつくるものではなく、
同じ人たちと時間を積み重ねながら育てていくもの
なのかもしれません。
採用とは「人を増やす仕事」ではない
求人活動をしていると、
応募数。
面接数。
採用数。
こうした数字を追いたくなります。
もちろん数字は必要です。
しかし、私は応募者が多ければ採用が成功だとは思っていません。
100人面接して、誰も会社やサービスに合わないのであれば、良い採用とは言えません。
逆に応募が数人しかなくても、
「この人と一緒に長く働きたい」
と思える人と出会えれば、それは良い採用です。
だから求人広告も、
いかに魅力的に作ってたくさんの人を集めるか
だけではなく、
私たちがどんな会社で、どんなサービスを提供し、どんな人と一緒に働きたいのかを正しく伝えるもの
であるべきだと思っています。
合わない人には、応募してもらわなくていい。
それも採用活動の一つの役割なのかもしれません。
「その人が私たちの会社に来る理由」と、
「私たちがその人と一緒に働きたい理由」。
その二つが重なる人を探す。
そして、お互いに時間をかけて確認する。
採用した後は、その人を大切にする。
同時に、これまで会社を支えてくれている仲間をもっと大切にする。
私は、それが採用と組織づくりだと考えています。
雇用するということは、単に労働力を一人増やすことではありません。
これから長い時間を一緒に過ごす同志を、一人迎えることです。
だからこそ、採用は難しい。
そして難しいからこそ、安易に考えてはいけない仕事なのだと思っています。

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